胸が張るという症状は、生理前の症状としてよく聞かれる症状のうちのひとつです。そして、胸の張りの症状は妊娠初期の症状としてもみられることがあります。

妊娠初期の経験談として、「生理前の胸の張りよりも胸の張りが強いなと感じたら妊娠していた。」というパターンをよく見かけます。実は私もこのパターンでした。しかし、「生理前はいつも胸が張るのに、生理前なのに胸が張らないと思っていたら妊娠していた。」というパターンもあるようなのです。

生理前には胸が張るのに、妊娠前には胸が張らないということはあるのでしょうか?生理前と妊娠前の胸の張りの謎に迫ってみたいと思います。

生理前の胸の張り

生理前の胸の張りは、月経の前に精神的や身体的な不快・苦痛な症状がみられる月経前症候群(PMS)の症状のうちのひとつでもあります。

月経前症候群としての胸が張る症状

生活に支障きたすほどの月経前症候群の症状がみられる女性の割合は5.4%程度とされており、決して多くはありませんが、月経前に何らかの症状を抱えている人は日本の月経のある女性の70〜80%程度と言われています。1)

150種類以上もあるとされている月経前症候群の症状ですが、青年期女性の月経前症候群の実態を調査した論文では、月経前症候群の身体的症状として、「お腹が苦しい、不快感がある症状(81.6%)」の次に「胸が張る症状(64.8%)」の訴えが多かったという結果が得られています。月経前症候群でない人でも44.2%が「胸が張る」と答えており、2)多くの人が生理前の胸の張りを経験しているということになります。

私も生活に支障が出るとまではいきませんが、生理前に胸の張りの症状が出るうちの一人です。

生理前は胸が張るのに妊娠前には胸が張らないことってある? photo 1

生理前に胸が張る原因

生理前に胸の張りが起こる原因は諸説あり、はっきりとは解明されていませんが、月経前に症状が出て、月経が終わる頃には症状が和らぐため、女性の月経周期における女性ホルモンの分泌の変動が関係していると考えられています。

今までは、生理前に胸が張る原因として、排卵が起こってから月経までの黄体期にエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の二つの女性ホルモンの分泌量が増えることや、月経前に身体に水分や塩分が蓄えられやすくなることが考えられていました。しかし、最近ではそれらの原因だけでは胸の張りを含め、生理前にみられる身体的な症状を説明することはできないという考えにシフトしてきています。3)

最近の考え方としては、黄体期の後半にエストロゲンとプロゲステロンの分泌量が低下することが、脳内のホルモンや神経伝達物質のセロトニンなどの分泌や作用に影響し、月経前症候群が起こることが言われています。脳内のホルモンや神経伝達物質は環境やストレスの影響を受けやすいので、女性ホルモンの分泌量の低下だけが月経前症候群の原因とは言い切れず、さまざまな原因が複雑に作用しあって起こるとされています。1),3)

妊娠時の胸の張り

妊娠16週以降からは母乳がつくられるために乳腺が発達して胸が大きくなる時期です。4)この時期には女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンの作用によって乳腺が発達して胸が張り、大きくなります。

では、妊娠初期はどうでしょうか。妊娠するとエストロゲンとプロゲステロンの二つの女性ホルモンの分泌量は増加します。胸が張る症状をはじめ、妊娠時にみられる様々な身体の変化は女性ホルモンの変動によって起こるとされています。

ただ、生理前に胸の張りを感じる人もいれば、胸の張りを感じない人もいるように、妊娠前の胸の張りの症状の出方にも個人差があります。そのため、全員が妊娠前の胸の張りを感じるわけではないようです。

生理前の胸の張りと妊娠時の胸の張り

生理前の胸の張りも妊娠時の胸の張りも、女性ホルモンの分泌の変動が関連しています。女性ホルモンの分泌量は人によっても差があり、エストロゲンとプロゲステロンの分泌の割合や変動の仕方も人によって幅があります。月によっても胸の張りが強く出る月やあまり胸が張らない月もあるでしょう。

生理前は胸が張るのに妊娠前には胸が張らないことってある? photo 2

私は妊娠している場合には、妊娠がわかる前の妊娠初期に胸が強く張るのですが、「もしかして妊娠?」と思うほどに胸が張ったときでも妊娠していなかったということもありました。胸の張りの症状も常に同じではなく、その時々によって差があるようです。

ですので、生理前に胸が張るから、妊娠前にも胸が張るとは必ずしも言えず、生理前に胸が張って、妊娠初期には胸が張らなかったというパターンもあり得そうですね。

生理前や妊娠初期に胸の張りが強く出る場合に考えられること

生理前や妊娠初期に胸の張りや痛み、しこりが触れるなどの症状が強くみられるときには、乳腺症や乳腺炎など、定期的な受診が必要である場合もあるので知っておきましょう。

乳腺症

生理前から月経にかけて胸の張りが強くなる、痛みがある、しこりが触れる、乳頭から分泌物が出るなどの症状がみられる乳腺症という症状があります。

乳腺症は女性ホルモンの変動によって起こる生理的な現象であり、乳腺症と診断されたからと言ってすぐに治療をしなければならないわけではありません。しかし、なかには乳がんのリスクが隠れていることもあるので、30歳以上の方や医師が必要と判断した場合には精密検査と定期的な受診で経過観察を行うことが必要です。

生理前の胸の張りが強く、気になるという場合は乳腺外科を受診しましょう。5)

乳腺炎

乳腺炎は授乳期の女性にみられる乳腺の炎症ですが、まれに、妊娠初期でも乳腺炎となる場合があるようです。胸の張り、痛み、熱感、赤み、発熱、腫れなどがみられたら、産婦人科や乳腺外科を受診しましょう。放っておくと悪化するので乳腺の炎症をおさえ、乳管の詰まりをとることが必要です。

生理前の胸の張りを和らげる方法

胸の張りを助長する食事として脂肪の多い食べ物、カフェインがあげられます。また、ストレスや睡眠不足も胸の張りを強めるようです。胸の張りが気になる場合には、以下のことに気をつけてみましょう。6)

  • 油や脂肪の少ないメニューを選ぶ
  • コーヒーや紅茶など、カフェインが含まれるものを控える
  • 海藻などに多く含まれるヨードを多くとる
  • ストレスをうまく発散して溜め込まないようにする
  • 睡眠を十分にとる

1)公益社団法人日本産科婦人科学会 月経前症候群Link
2)宮澤洋子、富永国比古、土田 満 青年期女性における月経前症候群(PMS)の実態についてa href=”http://www.mizuho-c.ac.jp/library/images/library/kiyo_07/session04.pdf” target=”_blank”>Link
3)甲村弘子 若年女性における月経前症候群(PMS)の実態に関する研究a href=”https://ci.nii.ac.jp/els/contents110008096396.pdf?id=ART0009622621″ target=”_blank”>Link
4)菊池新 乳房の解剖と乳汁生成・分泌過程a href=”https://www.slideshare.net/shinkikuchi/ss-48465042″ target=”_blank”>Link
5)乳腺症、乳房痛 女性の健康推進室ヘルスケアラボ厚生労働省a href=”http://w-health.jp/woman_trouble/mastopathy/” target=”_blank”>Link
6)八尾総合病院内ブレストケアセンター 乳腺症と診断酸れた患者様へa href=”http://yatsuo.or.jp/byouin/pamphlet/pamphlet/yatsuo/mastopathy.pdf” target=”_blank”>Link