妊娠初期に胸のしこりを発見したらイコール乳がんではありません。

胸のしこりは妊娠による乳腺の腫れや乳腺症、良性の腫瘍でもみられます。ですが、妊娠する女性の年代は乳がんになりやすい年代でもあることを知り、妊娠中でも胸の変化のチェックを行って、早期発見、早期治療につなげることが治療の選択肢の幅を広げることになります。

今回は、妊娠初期にみられる胸のしこりと乳がんについて一緒に学んでいきましょう。

出産する女性の年齢と乳がんを発症する女性の年齢

厚生労働省の人口動態統計によると、出産する母親の年齢は平成12年までは25〜29歳が最も多かったのに対し、平成17年以降は30〜34歳で最も多くなっています。平成22年からは35〜44歳までの出産も増加しており1)、全体的に出産年齢が高齢化してきていることがわかります。

一方、国立がん研究センターの2014年の女性の乳がんの年齢階級別罹患率をみてみると、25歳から増え始め40代でピークとなっています。2)

妊娠初期に胸のしこり?知っておきたい妊娠期の乳がんのこと photo 1

ちょうど出産する母親の年齢と女性の乳がんの罹患率が多い年齢とは同じ時期であり、妊娠・出産する年齢の女性は乳がんを発症しやすい年齢でもあるということになります。米国国立がん研究所によると、妊婦3,000人に約1人の割合で乳がんを発症し、32〜38歳の女性で最もよく見られる3)とあります。

妊娠中は乳がんの早期発見が難しい

妊娠中は女性ホルモンの影響で、妊娠による通常の変化として乳房の張りや痛みなどの症状がみられ、胸の小さなしこりは見つかりにくい状態にあります。妊娠期は乳腺の密度も高くなり、超音波エコーで乳がんを発見することも難しくなり、妊娠していない女性に比べて妊娠中の乳がんの発見は遅れがちの傾向が見られます。4)

乳がんの症状

妊娠中は生理的な胸の張りや痛みなどによって胸のしこりが見つかりにくい状況にありますが、早めの診断と対処が治療の選択肢が増えることにつながるので、以下の症状が見られたら、早めに産婦人科や乳腺外科を受診しましょう。

  • 乳房、乳房の付近、わきの下にしこりがみられる。(乳がんの部位で一番多いのは乳房の外側上方)5)
  • 乳房の大きさや形が変化する
  • 乳房の皮膚のへこみやしわがみられる
  • 乳頭が陥没する
  • 乳頭から母乳以外の分泌物や血液が出る
  • 乳頭や乳輪部がただれる、赤く腫れる
  • わきの下や鎖骨付近のリンパが腫れる

乳がん治療と妊娠・出産の両立が可能なことも

日本での妊娠中のがん治療においては、妊婦や胎児への安全性の面から、抗がん剤治療を行いながらの妊娠継続は不可能という考えが一般的でした。しかし、妊娠中でも早期の限局性の手術可能な乳がんに対しては、妊娠を継続しながらがん治療を行い、出産・育児までサポートできることがわかってきています。

2018年6月には、がん治療と妊娠・出産を両立するための妊娠期がん診療ガイドブックが発行されました6)。産婦人科医とがんの専門医との連携した治療が必要であり、症状などによってがん治療と妊娠継続が両立できるケースの限りもあるため、早めの診断、対応が必要とされます。

妊娠初期に胸のしこり?知っておきたい妊娠期の乳がんのこと photo 2

妊娠初期に胸のしこりが見つかったら

妊娠中に胸にしこりが見つかったら、まずはかかりつけの産婦人科や乳腺外科を受診し、診断を受けましょう。

胸のしこりで考えられる症状・病気

胸のしこりができるのは乳がんだけではありません。妊娠中には以下の症状や病気がみられることもあります。

  • 乳がん
  • 妊娠による生理的な乳腺の腫れ
  • 乳腺症
  • 乳腺炎
  • 乳腺繊維腺腫
  • 葉状腫瘍

できるだけ早い診断が必要な理由

妊娠初期に胸のしこりが見つかったら、「妊娠して胸が張っているからしこりができているのかな?」とも思ってしまいそうですが、乳腺の腫れではない場合もあります。以前に乳腺症や乳腺炎になったことがある人だと、また症状がぶり返したのかなとも思いがちですが、乳がんが隠れている場合もあります。

そのほとんどが良性といわれる乳腺繊維腺腫、葉状腫瘍などでもしこりが急激に大きくなる場合や悪性になる場合もありますので、的確な診断を仰ぐことが大切です。不安な胸のしこりや胸の症状がみられれば、自分の身体と赤ちゃんを守るためにもできるだけ早く受診しましょう。

1)厚生労働省 平成29年(2017)人口動態統計(確定数)の概況 第4表 母の年齢(5歳階級)・ 出生順位別にみた出生数 Link
2)国立がん研究センターがん対策情報センター「がん登録・統計」Link
3)National Cancer Institute Breast Cancer Treatment During Pregnancy (PDQ?)?Patient Version Link
4)Moore HC , Foster RS Jr.  Breast cancer and pregnancy. Semin Oncol. 2000 Dec;27(6):646-53. Link
5)公益社団法人 日本対がん協会 乳がんの基礎知識 Link
6)妊娠期がん診療ガイドブック 北野敦子ら編 南山堂 2018.6  Link