「一人目を出産して授乳中に妊娠していたとしたら、胸の張りは起こらない?」と不安になる方がいるようです。

それというのも、授乳中にも胸が張る人と張らない人がいるからです。

授乳中に胸が張る仕組みとともに授乳中の妊娠で胸が張る症状がわかるのかどうかを考えていきましょう。

授乳中の胸の張り

妊娠するとプロラクチンの作用によって乳腺が発達し、胸が張り、胸の容量が大きくなります。出産後には母乳がつくられて生理的な胸の張りが起こります。胸の張りは、授乳すると一時的に軽くなりますが、時間が空くとまた胸が張ってくるということを繰り返します。

しかし、中には、胸の張りは感じないけれども、授乳すると母乳は出るというタイプの方もいらっしゃいます。このタイプの方は差し乳という表現をされることもあります。実際に私が出産のときに同じ病室だった方が「私、差し乳だから胸が全然張らない」とおっしゃっていました。

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私自身は出産後、胸がキンキンに張って乳管が開かないという状態で、涙を流して痛みに耐えながら看護師さんの乳房マッサージを受けていたので、差し乳タイプの方をなんともうらやましく思った経験があります。ですが、差し乳タイプの方は、「胸が張らないから母乳が出ているか心配」という不安を持つこともあるようです。母乳が出る仕組みを確認するとともに、授乳中に起こる胸の張りについてみていきましょう。

母乳が出る仕組み

妊娠中は、エストロゲンやプロゲステロンが多量に分泌されており、母乳が出ることがおさえられています。出産直後から産後2日までの間は免疫にかかわる成分がたくさん含まれている初乳が赤ちゃんが吸わなくても分泌される仕組みになっています。

産後2〜3日後からはプロゲステロンが減少し、母乳の分泌される量が増えて母乳の成分も初乳のときとは変わります。出産直後から授乳を十分にしていれば胸は軽く張り、母乳の分泌量も増えてきますが、授乳や搾乳をしていない場合には腫れや痛み、熱感を伴って胸が張ります。出産後1週間授乳の機会がないと、母乳を分泌するプロラクチンの値は妊娠前まで低下して、母乳の分泌が止まってしまうこともあります。

出産後9日後以降は赤ちゃんがおっぱいを吸う刺激で母乳が分泌され、授乳や搾乳で乳房から出ていく母乳の量の分だけ新たに母乳がつくられるという調整が行われるようになります。1)

授乳中に胸が張らずに心配な時は

授乳中では、授乳の間隔が少しでも長くなると、胸が張ってしょうがいないという方もいれば、胸の張りは感じないけれども赤ちゃんが吸えば母乳は出るという方もいらっしゃいます。「胸が張らないから母乳が出ていないかも」と心配になったときには自己判断でミルクを足さずに以下のことをチェックしてみましょう。赤ちゃんが母乳を十分に飲んでいるときのサインは以下のとおりです。

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  • 24時間に8回以上母乳を飲んでいる
  • 24時間に6〜8回の色の薄い排尿がある
  • 24時間に3〜8回の排便がある
  • 赤ちゃんが授乳中にごくごくとおっぱいを飲んでいることが確認できる
  • 赤ちゃんが次の授乳までに機嫌よく過ごしている
  • 赤ちゃんが元気に過ごしており、肌の張りもよい

赤ちゃんが十分に母乳を飲んでいるときのサインに当てはまるかどうかの判断がつかない場合には、市町村の保健センターなどで1週間に1回程度赤ちゃんの体重を測り、体重が増えているかどうかをチェックすることもよいでしょう。2)

有料になりますが、赤ちゃん用の体重計のレンタルができる会社もありますね。1回ごとの授乳でどれくらい飲んでいるか気になる場合には、授乳の間隔が安定して空くまで、授乳前後に体重を測ってチェックすることもよいでしょう。出産した産院や助産院、保健センターなどで母乳相談もできます。専門家の具体的なアドバイスももらえますので、悩んだときには活用してみましょう。

授乳中に妊娠時の胸の張りはわからない

授乳中でも胸が張る人と張らない人がいます。妊娠しても胸が張る症状が出る人もいれば出ない人もいます。授乳中の胸の張りで妊娠しているかどうかを判断するのは難しいといえるでしょう。

妊娠しているときに授乳をしていると、赤ちゃんがおっぱいを吸う刺激で胸が張りやすくなるということから授乳の中止を指導される場合もあります。過去の論文では、妊娠中に授乳していることと流産との因果関係は認められないので、妊娠したからといって授乳をすぐに中止すべきではないと示されています。ですが、妊娠中の授乳と早産との関係については今後の研究が必要であるとあります。3)

また、母乳の量について興味深い研究発表がありました。千葉大学によると、母乳の分泌量に関与する遺伝子が発見され、母乳の分泌量はその人の生まれつきの個性であり、遺伝的に決まっていることがわかったとのことです。胸が張らない、母乳が出にくいとほかの人と自分を比べて落ち込むことはありません。人それぞれという情報をみんなが共有して理解し合うことが大切だと感じます。

1)NICU に入院した新生児のための母乳育児支援ガイドライン(解説編)日本新生児看護学会 日本助産学会平成 22 年 4 月Link
2)和光堂 母乳Q&ALink
3)母乳育児を継続するために—妊娠中の授乳は流産を引き起こすか? 石井廣重 日本産婦人科学会誌 vol61.12 864-868Link
abs/10.11477/mf.1665101706?p=firstTab”>Link1、Link2
4)母乳分泌量に関与する遺伝子を発見Link