授乳中の乳房の変化には、色々あります。
胸のかゆみもその一つではないでしょうか。
赤ちゃんに触れる場所だから気になりますよね。
様々な理由でかゆみが起こります。
ここでは、授乳中の胸のかゆみの原因とそのケアや対処方法についてお話します。
かゆみの原因
乾燥
季節の関係もあると思いますが、皮膚が乾燥することによってかゆみが起こります。
乾燥していると、母乳パッドや下着などのこすれる刺激によってもかゆみが起こりやすくなります。
かぶれ
皮膚がかぶれてくると、かゆくなります。
母乳パッドや下着のしめつけによって、皮膚がかぶれてかゆくなることがあります。
材質やサイズが合っていないものは、やめておいたほうがいいですね。
乳房が大きくなるときの皮膚の伸び
産後に乳房が大きくなる方もいらっしゃいますね。
それによって皮膚が引き伸ばされますが、そのときの皮膚の変化によってかゆみが起こることがあります。
特に産後3日前後に最初の胸の張りを感じたときには、乳房もぐっと大きくなることがあります。
母乳がもれて起こる刺激
授乳以外のときに母乳がもれてしまい、それが皮膚について刺激となるのです。
母乳の成分は大部分が水分ですが、タンパク質や脂肪分などの栄養もたくさん含まれています。
母乳そのものはとても良いものですが、長時間肌に付着して、汗と混ざり蒸れると皮膚に対して刺激になってしまいます。
かゆいなと思ったら、かぶれてくるかもしれませんので要注意です。
あせも
授乳中は、母乳を作るためにお母さんの体温が上がり、汗をかきやすくなります。
その汗の刺激によって、あせもができてしまうのです。
また、赤ちゃんも大人より体温が高いのが普通です。
このようにあったかい者同士がくっついていることが多いので、汗をかきます。
赤ちゃんのお世話を優先していると、こまめに拭き取ることも難しいので、あせもとなってかゆみが出てくることがあります。
皮膚炎
かぶれやあせもの程度がよりひどくなると、皮膚に炎症を起こしてしまい症状もひどくなりますし、治りにくくなります。
ちょっとかゆいなという時点で気をつけるようにすると、皮膚炎までは起こさないことがほとんどです。
カビ
産後は、妊娠中と同様に抵抗力が落ちています。
赤ちゃんの口や、乳首・乳輪にカンジダというカビが感染して、それが乳頭や乳輪部に感染するのです。
乳頭から乳輪部にかけてうっすら白く赤みを帯びて、かゆみがあります。
赤ちゃんの口の中は白いコケ状のものが見え、これを鵞口瘡(がこうそう)と呼んでいます。
カビは、抵抗力が低いときに感染しやすいと言われていますので、注意しましょう。
ストレス
授乳中は、月齢によって夜中の授乳が頻繁で睡眠が十分取れないことも多く、昼間もゆっくりと休むのが難しいこともありますね。
慣れない育児に奮闘することでストレスを感じて、皮膚にかゆみを感じる方がいらっしゃいます。
これは、育児が嫌だと思っているわけではなく、身体の反応としてのストレスでかゆみが生じるのです。
私が担当した患者さんの例
比較的乳房の大きな方によくありますが、乳房の下の皮膚が接する部分のあせもがかゆいと言われる方がいます。
乳房に母乳が貯まると重さもあり、もとから皮膚が重なっている上に汗をかくのです。
後で汗だけでも拭き取ろうと思っていても、忘れてしまい刺激になっているケースがあります。
細かいですが、シャワーをするときには、乳房を持ち上げて乳房の下の皮膚が重なっている部分の汗や汚れも流すようにするといいですね。
かゆみに対するケアや対処方法
清潔
まずは、皮膚を清潔に保つことが重要です。
いくら薬をつけても皮膚そのものがきれいに保たれていないと、保湿剤や薬も効果が発揮できません。
反対に、清潔にするだけでも痒みやその他の皮膚症状が良くなることも多いのです。
洗い過ぎには注意が必要ですが、シャワーで流す、無理なら汗だけでも拭き取る、着替えるなど、できるだけ清潔に保てるようにしましょう。
また、汚れや汗を流すときには、ゴシゴシ洗わずに泡で優しく洗い、ゆすぎもしっかりとしましょう。
熱いお湯で洗うのはあまりよくありません。
なぜかというと、熱いお湯は肌の保湿成分を奪ってしまうので、更に乾燥させてしまうからです。
できれば、ぬるめのお湯で洗うといいですね。
保湿
肌の状態を良くするために、保湿が重要となります。
保湿の大切さはわかっていても、なぜ大切なのかといことをしっかりと把握している方は少ないのではないでしょうか。
トラブルがあるときだけではなく、普段から大人も子どもも、そして赤ちゃんも保湿が大切ですので、ここでわかりやすくご説明しておきましょう。
肌のバリア機能
皮膚のバリア機能というのを聞いたことがあるでしょうか。
ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんね。
皮膚は、「外から異物が入ったり攻撃されたりすることから身体守る働き」や「体内から水分が蒸発するのを防ぐ働き」というバリアの役割があるのです。
この重要な役割を担っているのは、皮膚の一番外側にある「角層」と呼ばれている部分です。
でも、この肌のバリア機能は、乾燥した空気やかゆみで肌を掻くことで壊されてしまいます。
角層の水分が少なくなってくると、、肌のバリア機能が低下して、表面は乾燥して傷ついた角層がザラザラになって乾き、ドライスキンと呼ばれる状態になります。
ドライスキンになると、皮膚の表面近くまでかゆみ感じる神経が伸びて、外部からの刺激に敏感になってしまいます。
このために、肌をかいてしまって炎症が起こり、更にかゆみが悪化してしまうという悪循環になるのです。
保湿方法
肌のバリア機能の観点から、保湿はとても重要です。
保湿のポイントは、「洗ったらすぐに保湿すること」です。
肌を洗った後は、水分がどんどん少なくなっていきますので、できるだけ早く保湿することが大切です。
保湿剤は、市販されているもので構いません。
いつも使用しているものがあれば、産後も同じもので良いでしょう。
赤ちゃんに触れるから気になるという方は、胸には赤ちゃん用の保湿剤を使用してみてもいいかもしれませんね。
赤ちゃんのお世話を優先して難しいこともあると思いますが、「できるだけ早めに保湿する」と覚えておきましょう。
水分補給
授乳中のお母さんは、身体の水分が不足しがちです。
母乳の成分はほとんどが水分ですので、たくさん母乳が出ている方はその分の水分補給が必要になります。
赤ちゃんの1日の必要水分量を表にまとめましたので、参考にしてくださいね。
例えば、新生児の1日の平均的な水分必要量は、400ml−500ml、3ヶ月の赤ちゃんは750ml−850ml程です。
おおよその1日の水分必要量
1kg当たりの水分必要量
新生児
400−500ml
125−150ml/kg
3ヶ月の赤ちゃん
750−850ml
140−160ml/kg
6ヶ月の赤ちゃん
950−1100ml
130−155ml/kg
1歳の赤ちゃん
1150−1300ml
120−135ml/kg
一般社団法人 西彼杵医師会、ひろた小児科 広田 哲也 医師、「乳児、幼児の水分管理」、Link
これらの必要量を母乳でまかなっているのであれば、お母さんはその分の水分は必ず摂取する必要がありますね。
もともと大人も1日2リットルほどの水分は必要だとされています。
この水分は、食事から摂る分や食材に含まれているものも合わせての量です。
これを参考にすると、授乳中のお母さんは1日に2.5−3リットルもの水分が必要になるのですが、「そんなに飲めない!」と思っている方も多いでしょう。
飲みたくないのに、無理をして飲むと胃腸や体調が悪くなることがありますので、無理をしないでくださいね。
授乳中でも基本的には、飲みたいと感じたときに飲むと良いですね。
自然に感じる喉の乾きに合わせて、1日の水分量が極端に少なくならないようにしましょう。
少なくとも1リットル以上は飲むようにして、それ以外は飲みたいときに少しずつでも飲むようにするといいですね。
冷やす
あまりにもかゆみが引かない場合は、一時的に冷やすと良いでしょう。
一般的にかゆみや痛みは、冷やすと少し治まると言われています。
冷やしすぎるとよくありませんので、気をつけてくださいね。
ストレスの発散
ストレスでも皮膚の症状が出る場合がありますので、できる限りストレスを発散できるといいですね。
でも、そのストレス発散方法が、「一人で出かける」「ジムに行く」など、赤ちゃんと一緒では難しいものだとなかなか実現できませんね。
できることから取り組むことが大事ですが、お母さんの休憩時間、リフレッシュの時間というものは必要なんです。
旦那さんや他の人に赤ちゃんのお世話を頼めるようなら、思い切って実行してみましょう。
15−20分など短い時間でもスーパーやカフェ、散歩に行くだけで割と気分が変わるんですよ。
または、ベッドでゆっくりとくつろぎたいという気持ちも普通のことです。
多くのお母さんは、24時間体制で慣れない育児を睡眠不足の状態でやっているのです。
私達医療従事者でも24時間は疲れます。
自分が休むことになんら罪悪感を感じることはありません。
お母さんが元気で笑顔でいることが、赤ちゃんや他の家族の元気や笑顔につながります。
家族は忙しくて頼めないという方は、自治体でファミリーサポートという形で安価で子育てを手伝ってくれる制度がありますので、確認してみてくださいね。
電池切れになる前に色々な人を頼りましょう。
私が担当した患者さんの例
私が海外で、ベビーマッサージのクラスをしていたときにお会いした日本人のお母さんのケースです。
身体に症状はなかった方ですが、赤ちゃんと2人での生活がとてもストレスになっている方がいらっしゃいました。
お会いしたのは、赤ちゃんが4、5ヶ月たっていた頃だと思います。
その方は、週に1−2回程赤ちゃんを1−2時間みてもらったり、家事を手伝ってもらったりするサービスを利用されていました。
その国では、このようなサービスがよく浸透していて、使いやすい環境でした。
その方は、「シッターさんが来たら、すぐに近くのカフェに直行するんです。コーヒーを1杯飲むだけでもすごくリフレッシュできるので、毎回そうしています。でも、赤ちゃんが気になるから飲んだらすぐに戻るんですけどね」とおっしゃっていました。
クラスの間、お話される内容や赤ちゃんへの接し方などを見ていると、慣れなくても一生懸命にお世話されていて、いい表情の方でした。
人それぞれにリフレッシュの方法は違うと思いますが、うまくサービスを利用して息抜きしていらっしゃるケースです。
受診・塗り薬
あまりにもかゆみが長く続いたり、ひどくなったりする場合は、受診しましょう。
産後間もなくであれば産婦人科、数ヶ月たっている場合だと皮膚科がおすすめです。
実は、授乳中でも使用できる薬はたくさんあるのです。
特に塗ったり貼ったりする外用薬は、母乳にほとんど影響がなく結構使えるのです。
受診して医師に出してもらった薬を使って、ひどくならないうちに治してしまいましょう。
対処が遅いと治りも遅くなる可能性があります。
私が担当した患者さんの例
湿疹が出てしまって、薬が使えないと思ってしばらく様子を見ていたお母さんがいました。
あまりにもかゆかったり、湿疹がひどいなら受診するようにおすすめしましたら、塗り薬を処方されたそうです。
それでも、薬は使わないほうが良いと考え、健診のついでに私に質問されたので、「使っても大丈夫よ」とお伝えしました。
後日、お話する機会がありお聞きしてみると、塗り薬を使ったらあっという間に良くなったとお話されていました。
「もっと早く使えばよかった。薬は怖いと思っていた」と言われていました。
妊娠中もそうですが、産後も授乳中はできるだけ薬を使いたくないですよね。
でも、授乳中でも使える薬がある、使うと良くなる薬があるということを知っておくといいですね。
まとめ
授乳中の胸のかゆみについてお話しました。
たくさんの理由でかゆみが生じるのですね。
大切なのは、「清潔にすること」「保湿」「水分の補給」や「ストレスの発散」です。
対症療法としては、一時的に「冷やす」ですね。
赤ちゃんのお世話もありますので、すべて一度にはできないかもしれませんが、できるところから試してみてくださいね。
あまりにもかゆみがひどい、長く続くなどの症状がある場合は受診しましょう。
気になっていたかゆみが、割とすぐに治まるかもしれませんよ。