授乳期の胸の張りに関しては、皆さん戸惑うことが多いようです。
張りに加えて、痛みを感じる方もいますよね。
「母乳を飲ませたいのに、胸が張ってうまく飲ませられない」「張りのあるときには、マッサージした方が良いのか、触らないほうが良いのかわからない」といった声もよくお聞きします。
初めての出産だと戸惑うのは当たり前です。
初めてではなくてもこの赤ちゃんとは初対面ですし、上のお子さんのときの胸の様子とは違うこともあるんです。
ここでは、授乳期の胸の張りについて、その原因と対処方法について私が関わったお母さん方のことも合わせてお話していきます。
胸が張る時期は色々ある
胸が張る原因は、産後の時期によって違います。
出産後に初めて胸が張るのを感じるのは、産後3日前後ではないでしょうか。
張りを感じて、みるみるうちに乳房の変化を遂げる方もいらっしゃいますし、反対にそれほどの張りも変化も感じないという方もいらっしゃいます。
経過は様々で、1人目と2人目以降の出産でも産後の乳房の変化が同じとは言えません。
ここでは、「産後3日前後の張り」「十分に母乳が分泌されている時期の張り」「卒乳・断乳のときの張り」に分けてその原因と対処方法をご説明しましょう。
「産後3日前後の張り」の原因と対処方法
原因
まずは、この頃の母乳の分泌の様子はどうなっているのかをお話しましょう。
乳房の中にある乳腺細胞という細胞は、血管のすぐ近くにあります。
その細胞が、血液中のタンパク質や白血球などの必要な成分を細胞内に取り込みます。
さらに、乳腺細胞が作る乳脂肪などの成分を加えて作られたのが母乳です。
これらの変化が起こっているときに、乳房が張り始めるとされています。
これらの変化は、産後には生理的な範囲で起こります。
作られた母乳を徐々に赤ちゃんが飲み、産後9日を過ぎると乳房の張りは落ち着いてくると言われています。
でも、乳房の張りやその感じ方は個人差も大きいものです。
対処方法
とにかく赤ちゃんに飲ませる
作られた母乳をそのままにしておくと、乳房の張りがもっと強くなる可能性があります。
そのときに作られた母乳は、できるだけそのときに吸ってもらうのがいいですね。
眠そうで吸う時間が短いときには、ほっぺや口元、手や足を刺激しながら起こしてみましょう。
飲ませられない場合は、母乳を出す(搾る)
赤ちゃんに吸わせることができない場合や赤ちゃんが吸ってくれない場合は、自分の手で搾り出すといいですね。
この時期、搾乳器では刺激が強すぎたりあまり搾れなかったりするかもしれません。
指で乳頭部と乳輪部全体をつまんで、ぽたぽたと搾り出すと良いでしょう。
このときに、痛くない程度に乳房全体を回したり動かしたりしながら搾ってみてください。
眠れないほどの張り(痛み)の場合は冷やす
自宅でなどにいて医療スタッフがいない場合は、乳房を冷やすのが良いでしょう。
ただ、これは対症療法でしかありません。
少しでも休みたいときに乳房の張りを和らげる方法です。
なぜ冷やす方が良かというと、眠れないほどの強い張り(痛み)であれば、温めるともっと張り(痛み)が悪化する可能性があって自分で対処するのが難しいからです。
ただし、母乳の出もいいしスムーズに搾り出すことができる場合は、温めながら出しても良いでしょう。
判断に困る場合は「冷やす」です。
温める場合もある
まだ入院中で病院内にいる場合は、スタッフに相談しましょう。
乳房の張りをほぐしてくれるスタッフがいる場合、温めながら対応してくれることがあります。
その場合、張り返し(後でもっと張ってくること)があるかもしれませんが、赤ちゃんが飲んだり搾乳したりしていると、徐々に乳房の張りはおさまってくるでしょう。
このように、今いる場所や母乳の出かたにより、方法が違うことがあります。
私が担当した患者さんの例
この時期に、乳房の張りをそれほど感じない方もいらっしゃいます。
実際に、「周りのお母さんたちは、胸が張って痛いと言っているのに、私は全然変化がないんです。このままだと母乳は出ないのでしょうか・・・」と産後2、3日頃に落ち込んでいるお母さんがいます。
かと思えば、岩のようにガチガチになっていてどうしたらいいのか戸惑っているお母さんもいるのです。
どちらにしても、母乳の分泌に関して判断するのはまだ早いと言えます。
なぜかというと、母乳の分泌には、細胞の働きと共にホルモンの働きが大きく影響しているからなんです。
妊娠中に分泌されていたプロゲステロンなどのホルモンの減少が起こり、母乳に関係するオキシトシンやプロラクチンというホルモンがそれらのホルモン量を上回ると徐々に母乳が増えてくるのです
この2つのホルモンは、赤ちゃんが乳頭を吸う刺激で分泌が促進されるのです。
乳房の反応としては色々な形がありますが、この時期の乳房に張りがあるかどうかは今後の母乳の分泌にはあまり関係がありません。
産後間もないお母さんの身体の中では、劇的な変化が起こっているのですね。
注意
乳頭や乳輪部にも張りがある場合(硬い場合)、赤ちゃんが飲みにくいかもしれません。
そんなときには、乳頭をつまんだり、押したりして柔らかくしてから授乳してみてくださいね。
そのままだと、赤ちゃんの口がすべって乳頭の先しか吸えなくなり、乳頭がヒリヒリしたり切れたりする可能性があります。
そうすると、余計に吸わせにくくなってしまいます。
「十分に母乳が分泌されている時期の張り」の原因と対処方法
原因
産後9日過ぎると、母乳は吸われた分を作る状態になってきます。
この時期に乳房が張る場合は、飲み残しや乳腺がつまりかけている可能性があります。
対処方法
更に赤ちゃんに吸ってもらう
飲み残しがある場合、更に赤ちゃんに吸ってもらいましょう。
乳房の張りが気にならない程度の飲み残しであれば、そのままでも大丈夫です。
ですが、片方しか飲んでおらず、飲んでいない方の乳房の張りがある場合は、やはり赤ちゃんに飲むように促してみるのが良いでしょう。
ゲップをして気分を変えてから、もう一度授乳してみても良いですね。
一旦、乳房から口を離してもまた母乳を吸う赤ちゃんも多いですよ。
授乳の姿勢を変える
授乳の姿勢を変えると、張りのある場所からの母乳が出やすくなり、張りがおさまることがあります。
いつもの姿勢ではない授乳姿勢を試してみましょう。
例えば、「いつも赤ちゃんを横にして授乳していたけど、フットボール抱きや縦抱きにしてみたら、張りがなくなった」ということがよくあります。
赤ちゃんに吸わない場合は搾乳する
赤ちゃんに吸わせられない場合や、赤ちゃんが吸ってくれない場合は、自分の手や搾乳器で搾ってみましょう。そのときに、痛くない程度に乳房全体を回してみたり、動かしてみたりすると搾りやすくなるかもしれません。
乳房が痛い・赤い・発熱がある場合は受診する
乳房が「張る」以外に、「痛い」「赤い」「熱がある」場合は、乳腺炎を起こしている可能性がありますので、医師の診察をおすすめします。
乳腺炎の場合は、母乳を与えながら飲める抗生物質を処方されることが多いです。
薬は、医師しか処方できません。
この場合は、助産師ではなく医師の診察を受けましょう。
医師から母乳を中止するように言われなければ、そのまま授乳を続けて大丈夫です。
でも、「炎症を起こしているのに母乳を与えるのは気になる」という方もいらっしゃるかもしれませんね。
お母さんの身体はうまくできていて、身体に菌が入ってきたらそれに対する抗体ができるのですが、母乳中にもその抗体が含まれており、赤ちゃんに感染しないようになっているのです。
すごいですよね。
ですので、医師から止められていなければ、母乳を与えながら乳腺炎の治療ができるのです。
私が担当した患者さんの例
あるとき、なぜか抗生物質を飲むことを怖がって、乳腺炎の状態で処方された抗生物質を飲まなかったお母さんがいらっしゃいました。
乳房の状態がどんどん悪化して、数日後に切開して排膿しなければならなくなってしまったことがありました。
私としてもとても悔やんだ出来事でした。
乳腺炎は、対処が遅くなると切開しなければならないことがありますので、注意しましょう。
早めの対処が大切です。
「卒乳・断乳のときの張り」の原因と対処方法
原因
卒乳や断乳をしたいと思って、授乳をやめると乳房が張ってくることがあります。
これは、本来なら飲んでくれるはずの母乳が、乳房にたまってしまったことによって起こります。
対処方法
卒乳するときに1日何回くらい授乳しているかにもよりますが、1日3、4回以上の授乳をしているのにいきなり授乳をやめると、乳房が強く張ってくる場合があります。
ですので、1日に1、2回の授乳回数になってから卒乳を考えても良いでしょう。
ある程度の回数の授乳があっても、いきなり授乳をやめる方法もありますが、お子さんにも乳房にも負担になってしまいます。
どうしてもそのような状況で授乳をやめなければならない場合は、数日〜数週間は搾乳やマッサージをしながら乳房のケアが必要なこともありますので、助産師に相談すると良いでしょう。
私が担当した患者さんの例
よくお電話を頂く例をお話しましょう。
「断乳後、○時間たったら搾乳する、その後○日目に搾乳する、更に○日目にもう一度搾乳すると書かれたネット情報を見て断乳したのはいいけれど、この通りにやったのに胸が張ってしまって、痛いしどうしたらよいかわからないので診てほしい」というご相談をよく受けます。
このような方法でうまくいく方もいらっしゃるでしょう。
でも、この方法は実行しているお母さんの胸の状態を考慮していません。
あくまでもこれくらいで搾乳すると良いだろう、うまくいくだろうという推測でしかありません。
乳房の状態は様々です。
みなさんがこの方法(この搾乳の間隔)で、うまく断乳ができるとは限らないのです。
ですので、自然に授乳回数が減っていきフェイドアウトするような卒乳ではなく、いきなりスパッとやめる断乳は、助産師に相談しながらすすめるのが良いでしょう。
無理のない方法で断乳・卒乳ができるといいですね。
乳房の張りが強い時の対策として
乳房の張りや痛みがあるときには、授乳中でも飲める薬があります。
お母さんは、何かと我慢しがちで、自分のことは後回しになりがちです。
辛いときには、痛み止めや薬などをうまく使って、自分の身体と心もいたわりましょう。
それが、赤ちゃんや家族にもいい影響を与えると思います。
鎮痛剤を飲む
カロナールだけでなく、ボルタレンやロキソニンも赤ちゃんに影響するほど母乳には出ないとされています。
葛根湯を飲む
血液循環を良くする効果がありますので、これで改善する方もいらっしゃいます。
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まとめ
授乳中の乳房の張りは、時期によって対処方法が変わります。
様々な情報が氾濫している中で、迷うことも多いでしょう。
早めの相談や受診でストレスを少なく、楽しく授乳できるといいですね。
医療情報科研究所編集(2009)『病気が見える』vol.10 産科(第3版)メディックメディア
堀内成子編集(2016)『エビデンスをもとに答える 妊産婦・授乳婦の疑問92』南江堂