赤ちゃんが1歳の誕生日を迎える頃になると、周りの人からも「もう卒乳した?」「まだ母乳を飲んでるの?」などと聞かれる機会も増えているかもしれません。
そろそろ卒乳しないといけないのかなと思っていても、どのタイミングで卒乳すればいいのかわからない方や、まだ卒乳したくないと考えている人も多いと思います。
ここでは、1歳になったら卒乳するべきなのか、卒乳の良いタイミングとはいつなのか、1歳以上になっても卒乳しないことによる悪影響があるのか、良い影響は何かということについてお話しましょう
1歳で卒乳しなくてもOK
結論からいうと、1歳になったからといって卒乳しなくても大丈夫です。
なぜかというと、様々な意見がありますのでご紹介しましょう。
WHOやUNICEF意見
WHO(世界保健機構)ややUNICEF(国際機構児童基金)では、「2歳まで母乳を与えましょう。2歳以上でも欲しがるなら与えましょう。2歳上になっていても母乳を与えても問題ありません」という声明を出しています。
これは、安全な水がなく、ミルクが高い、栄養のある食べ物も豊富ではない地域や国のことも踏まえての声明です。
日本の状況には当てはまらないこともありますが、このような国では母乳を長く与えることが、栄養補給になり感染症を予防し、子どもの健康にも良い影響を及ぼすことが多いと考えられています。
安全な水が手に入ったり、ミルクが安価な国では、2歳以上は母乳を与えてはいけない、母乳を与える必要はないというわけではありません。
母乳を与え続けるかどうかは親が決めてOK、子どもが欲しがるようで親が与えたいと思えば与えてもいいということです。
日本の意見
日本では、母子手帳から2002年に「断乳」という言葉がなくなりました。
1歳になっても母乳をやめる必要はないという流れになっています。
今では、1歳児健診でも「断乳」の指導があまりされなくなっているのです。
赤ちゃんが母乳を欲しがるようであれば与え、無理にやめなくても良いという風潮になっています。
これは、一般的にあまり知られていないかもしれませんが、母乳の良さが再確認され、母乳栄養を推進していこうという流れに沿った結果だと思います。
卒乳の良いタイミング
一番自然で良い卒乳のタイミングとしては、赤ちゃんが自然に母乳を欲しがらなくなり、飲まなくなる時期です。
赤ちゃんにとって、無理なく母乳を卒業できるタイミングです。
それが、1歳のときなのか、2歳なのか、3歳なのかはわかりません。
もしかしたら、1歳未満ということもあるかもしれません。
純粋な卒乳というと、赤ちゃんがもういいと思うまでなのです。
でも、赤ちゃんにとってその時期が良くても、お母さんには合わないこともあるかもしれません。
事情があって、卒乳する方向に進めていかなければならない方もいらっしゃるでしょう。
そのときには、それとなく授乳回数を減らしていってください。
赤ちゃんがそれに応じて、無理なく母乳を飲む回数が減りって欲しがらなくなれば、ちょうどよい時期だったのかもしれません。
実際の卒乳のタイミングで多いのは?
実際に卒乳(断乳も含めて)する時期で多いのは、1歳から1歳半頃です。
ご飯も食べ、遊びに夢中になる時期ですので、自然に母乳を欲しがらなくなる時期に当たるかもしれません。
また、1歳になると立って歩く子どももいますし、これまでよりも活動的になりますね。
お母さん方が赤ちゃんではなくなったと感じたり、そろそろ母乳をやめていこうかと考えるきっかけが多くなると考えられます。
といっても、「まだやめたくない」と思っているようならば、無理をして母乳をやめなくてもいいのです。
子どもが母乳を欲しがって、お母さんも与えたいと思うようなら存分に与えてください。
でも、巷で言われている長く母乳を与えることによる悪影響があるのではないかと心配する方もいらっしゃるでしょう。
次にそのことについてお話しましょう。
母乳を長く与えることによる赤ちゃんへの悪影響はある?
母乳を長く与えることによる悪影響はありません。
でも、1歳になっても母乳を与えていると、虫歯や甘え、自立心の育ちに悪影響があるのではないかという不安も見られるようです。
一つずつどのようなことかを説明しましょう。
虫歯なるという不安
「母乳を与えていると虫歯になる」と言われ、心配になる方が多いですね。
でも、母乳を与えていること自体が虫歯の原因になるわけではなく、歯の表面についている汚れが良くないのです。
他にも様々な原因が重なって虫歯になります。
1歳未満は眠っている間も唾液が出ている状態が多いのですが、1歳以上になってくると睡眠中の唾液が減ってきます。
唾液は、口の中をきれいにする作用がありますので、日中の起きているときには、母乳を飲んでいても唾液で洗い流してくれるのです。
子どもは母乳を飲むときに舌を突き出し、乳首を上の顎に押し付けてしごきながら飲むので、上の前歯に母乳が付着しやすいのです。
飲みながら眠ると母乳が上の前歯の周囲に残りやすくなり、食べかすが残ったままだとよくありません。
虫歯ができるとしたらこの部分が多いのです。
1本でも歯が生えてきたら、歯の表面の汚れを取るようにしましょう。
これは、食事だけでも食事と母乳、食事とミルクの組み合わせでも同じです。
1歳になっていると、赤ちゃん用のお菓子を食べている子どももいるのではないでしょうか。
虫歯は、歯の表面の汚れがポイントなんです。
日本小児歯科学会は、「母乳だけが虫歯のリスクを高めるわけではない」「精神的な結びつきも大切なため、できるだけ母乳をおすすめしたい」「歯が生えてきたら、歯の表面をきれいにして虫歯を予防しておくことが大切」ということを言っています。
甘やかしているのではないかという不安
いつまでも母乳を与えていると、甘やかしていることになってしつけとして良くないのではないかと心配する声もたくさんあります。
特に夫や家族から言われて、「もしかしたら良くないのかも・・・」と不安になっているお母さんもいらっしゃることでしょう。
自立を妨げているのではないかという不安にもつながるようですが、1歳以上になっても母乳を与えることは、甘やかしていることにはなりませんし、自立も妨げません。
1歳という区切りがついて、新生児の頃とは違う我が子がとても成長しているように見えてしまい、卒乳した方が良いのではないかと思ってしまうのでしょう。
子どもが母乳を欲しがり、お母さんも与えたいと思う場合は、母乳を続けてもらっても大丈夫です。
1歳以降も母乳を与えることの良い影響
1歳以降でも母乳を与えると、良い影響があると考えられていることがあります。
精神的な安定を与えられる
1歳以降となると、離乳食も進んで固形物や量も食べられるようになる頃ですね。
また、ハイハイや歩いて移動でき、保育園に行かない子どもでも外に出る機会も増えてきます。
外からの様々な刺激を受けて成長していく過程にあり、母乳を飲むことは精神的な安定をもたらすを言われています。
栄養は、12-18ヶ月で食事が1日3回+おやつ1回程度で食事から80%、母乳やミルクからは20%が補われています。
栄養的な要素よりも精神的な要素の方が大きくなるのですね。
たくさんのものに触れて帰ったら、お母さんの胸に抱かれて母乳を飲んで、リラックスするのです。
そして、また刺激を吸収できるようになると言われています。
ただ、母乳をやめてしまっても、抱っこや遊びなどのふれあいから精神的な安定感を与えることは可能です。
自己肯定感を育てる
このように求めているときに精神的な安定を得られ、「愛されている」「大切にされている」という実感があると、自己肯定感が高くなり、自分は大切な存在なんだと自ら思うことができるのです。
自己肯定感が高い子どもは、自分を大切に思えることで、同時に他人も大切な存在だということが自然に理解できると言われています。
このように刺激的な毎日の中で、安心できる存在のお母さんに抱っこされて母乳を飲むことが、心の安定につながっているのであれば、無理に卒乳する必要はないと考えられています。
母乳を与えたり抱っこしたりすることは、赤ちゃんへのわかりやすい愛情表現なんです。
まとめ
1歳の区切りに卒乳を考える方は多いようですが、必ずしもやめなければならないということはありません。
基本的には、親が考えるタイミングと赤ちゃんのタイミングが合えばそれでいいのです。
それとなく授乳回数を減らしていって、赤ちゃんもそれに無理なく応じて母乳を欲しがらないようであれば、ちょうどいいタイミングと言えるでしょう。
それぞれのよいタイミングで卒乳できるといいですね。
日本小児歯科学会「母乳とむし歯-現在の考え方」、Link