胸の張りの症状があると、「張って痛い」、「張って辛い」と感じる方も多いと思います。「張っている」症状に対しては、筋肉の張りと同じように「マッサージをすると楽になるのでは?」と思う方もいるのではないでしょうか。また、「妊娠中期・後期に入ったら、おっぱいマッサージをしましょう」という情報を目にする機会もあり、「マッサージをした方がいいのかも?」と不安に思う方もいらっしゃるでしょう。

今回は、妊娠中の胸の張りとマッサージについて説明していきます。

妊娠中の胸の張り

妊娠中の胸の張りは、妊娠初期は女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンの分泌量の変動に関係があると言われています。また、妊婦経過に伴う乳房の発育状況をみると、妊娠してから乳房のトップやアンダーの値は継続して増加しており、1)乳腺や乳管の発達による胸の張りも妊娠経過を通してみられると考えられます。

筋肉は使い過ぎや力のかけすぎなどのオーバーユースにより、血流が悪くなって張りが生じた場合、マッサージを行うことで血流が改善され、張りがやわらぎます。しかし、妊娠中の胸の張りは妊娠による乳房の組織の生理的な胸の変化であるので、マッサージをして張りがやわらぐものではないのです。マッサージの刺激が胸の張りや痛みを増すことにつながる可能性もありますので、胸の張りの改善目的でマッサージを行うのは避けましょう。

妊娠中の胸の張りにマッサージはよい? photo 1

妊娠中期・後期の乳房マッサージ

妊娠中期から「おっぱいマッサージを始めましょう」という情報をネットで見ることもありますが、産院や助産院により、おっぱいマッサージを始める時期の指導は異なります。何より、母体や赤ちゃんの状態によって行ってよい場合と行わない方がよい場合とがありますので、主治医に相談のうえ、正しい乳房マッサージを助産師や看護師からの指導のもとに行いましょう。

妊娠16週以降で早産の治療をしていない妊婦を対象に乳房・乳頭・乳輪のチェックと、状態に合わせた乳房マッサージや乳頭圧迫方法、乳管開通法、乳頭清潔ケアを行ったところ、乳頭がやわらかくなり、乳管が開通して産後の母乳分泌が増加するので、母乳育児がスムーズに行えるという研究報告があります。2)また、乳房ケアやマッサージは、無害である限りにおいて乳頭の痛みや傷が改善されること、病的な乳房緊満や乳腺炎などのトラブルを予防すること、母乳育児期間が長くなることの有効性が確認されている3)とも言われています。

産後の母乳育児に向けて、乳頭や乳房のトラブル予防、母乳分泌の促進、母乳育児期間の延長を促すためのケアとしてのマッサージは、母体・胎児の状態が安定していて早産のリスクがない場合にはよいとされています。産後の病的な乳房緊満の予防にも有効であると言われており、産後、乳管の開きを促して、乳房の張りを予防する目的で妊娠中に乳房マッサージを行うことはよいでしょう。

乳房マッサージで注意したいこと

乳頭への刺激は子宮の収縮を促してお腹の張りにつながり、早産のリスクとなることがあります。産院や助産院から妊娠後期に入って、乳房マッサージを自宅で行うように指導を受けたときも、注意事項をよく確認し、マッサージを行うようにしましょう。

妊娠中の胸の張りにマッサージはよい? photo 2

胸の張りによいケアとは

妊娠中の胸の張りがある場合は、締め付けの強い下着での圧迫や胸の揺れの刺激、下着との擦れによる刺激で余計に胸が張ることもあります。妊娠すると胸のサイズはどんどん変化していきますので、その時の胸のサイズに合わせて、圧迫感がなく、程よく胸をホールドする機能がある下着を身につけましょう。

妊娠中は皮膚が乾燥しやすく、妊娠していないときには何ともなかった素材でもかぶれが起こることもあります。肌に優しい綿の素材のものを選ぶとよいでしょう。妊娠中の胸の特徴に合わせたマタニティ専用の下着も販売されているので、妊娠中は専用のものを使用するのがおすすめです。

胸の張りは気になってしまう症状ですが、妊娠による自然な変化のため、バランスのとれた食事をとり、リラックスして過ごすことも大切です。温めすぎると胸の張りが増すこともあるので湯船に長時間つかることは避け、胸が張って痛むときには冷やしてみるのもよいでしょう。

一般的な対策方法は下着や食生活、リラックス、温めすぎないなどですが、個人によっても症状や症状の強さは異なるので、胸の張りで悩むときには主治医や助産師に相談し、アドバイスを受けましょう。

1)堀井満恵ら 妊娠経過に伴う乳房の発育状況と泌乳との関係 富山医科薬科大学 看護学会誌 第1号 1998 Link
2)安藤美由紀ら 妊娠中の乳房・乳頭ケア効果の実際 乳房カルテ作成と自己マッサージ指導を取り入れて 第54回日本農村医学会学術総会 Link
3)井村真澄 母と子にやさしい,社会にやさしい,環境にもやさしい エビデンスに基づく母乳育児を支援しよう 医学書院 週間医学界新聞 第2761号2007年12月17日 Link