授乳中に、胸が熱くなることってありますよね。
胸がどんどん熱くなってくると、痛みを伴ったり硬く感じたりして、どうしたらいいのかわからないという方も多いと思います。
授乳中の胸の熱には、「良い熱」と「悪い熱」があります。
これらの対処方法を知っていれば何も怖くありません。
ここでは、授乳中の「良い熱」と「悪い熱」の正体とその対処方法を、私が接したお母さん方のことも合わせてお話します。
ぜひ、参考にしてくださいね。
授乳中の熱の種類
授乳中の熱は、「産後3日前後の熱」「母乳がたまったときの熱」「乳腺炎の炎症を起こしたときにの熱」があります。
乳腺炎以外の熱は「良い熱」です。
でも、乳腺炎の熱は「悪い熱」です。
「悪い熱」は、すぐに対処しなければ悪化する一方ですので、注意が必要です。
熱の測り方は、熱があるときに普段通りに脇の下で体温を測ると、全身的な熱か乳房だけの熱かがわかりにくいことがあります。
このようなときには、肘の内側に体温計をはさむか、口の中で体温を測ってみてください。
口の中は粘膜ですので、脇の下で測るよりは少し体温が高く出ます。
熱の正体(原因)
良い熱
良い熱の特徴は、全身的な熱ではなく、生理的な範囲で乳房が熱くなる程度の熱です。
例えば、「産後3日前後の熱」は、母乳を作る過程で乳房が熱くなります。
いわば、母乳分泌の前駆症状だと思って頂いて大丈夫です。
このときは、乳房が「熱く」「硬く」「痛く」なることがありますが、全ての方がそうなるわけではありません。
もう一つの良い熱は、産後ある程度の日数がたった後の「母乳がたまったときの熱」です。
これは、どんなときになるかというと、授乳と授乳の時間がいつもよりもあいたときや、赤ちゃんが作られた分の母乳を飲まなかったときです。
このときも乳房が「熱く」「硬く」「痛く」なることがあります。
結構たくさんの母乳がたまっているときには、「重い」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
どちらにしても、乳房は熱く感じるかもしれませんが、「全身的なつらい熱」は出ません。
また、乳腺炎の「非感染性(うっ滞性)乳腺炎」と似ていますが、そこまでひどくはなく、たまった母乳がスムーズに出れば問題ありません。
悪い熱
悪い熱の代表例は、なんと言っても「乳腺炎の熱」です。
乳腺炎の熱は、「急に」「高熱が出て」「胸も痛い」ことが多いので、「全身的なつらい熱」が出ます。
乳腺炎には、「非感染性(うっ滞性)乳腺炎」と「感染性(化膿性)乳腺炎」があります。
次に、乳腺炎について詳しく説明しましょう。
乳腺炎
乳腺炎は、母乳中の白血球や細菌の数によって、「非感染性(うっ滞性)乳腺炎」と「感染性(化膿性)乳腺炎」に分けられます。
非感染性(うっ滞性)乳腺炎
原因
非感染性(うっ滞性)乳腺炎は、母乳が分泌されるときに通る管である乳管が詰まったり、母乳がたまったりしているために、乳房に炎症症状が出た場合をいいます。
症状
乳房の腫れや痛み、乳房が熱い、硬い、赤くなるなどの症状があります。
多くは乳房が熱いだけで、「全身的なつらい熱」は出ないことが多いです。
感染性(化膿性)乳腺炎
原因
感染性(化膿性)乳腺炎は、乳頭や乳輪部の傷口からブドウ球菌、レンサ球菌などに感染するることによって起こります。
ブドウ球菌、レンサ球菌は、他にもよく感染症を起こす菌です。
症状
38度以上の高熱、乳房の腫れや痛み、乳房が熱い、赤くなるなどの症状があります。
急に熱が上がってきて、寒気や関節痛などの症状が出る場合もあります。
乳房の症状があって高熱が出たら、まず感染性(化膿性)乳腺炎を疑いましょう。
対処方法
それぞれの対処方法についてご説明しましょう。
良い熱
母乳を出す
良い熱のうち、「産後3日前後の熱」のときには、たくさんの母乳が出るわけではありませんが、現在乳房にある母乳は出しておく方が良いというふうに考えてください。
赤ちゃんが吸い付くようであれば、どんどん授乳するのです。
吸い付けば、少しずつでも飲み取ってくれるはずです。
頻繁な授乳でも構いません。
乳頭が痛い、赤ちゃんが飲まないというときには、自分で搾り出しておくといいですね。
この頃は、たくさんの母乳は搾れないことが多いので、搾乳器を使うよりも「手でポタポタと搾る」のが良いでしょう。
手で母乳を搾るときは、乳頭だけをつまんでも母乳は出てきません。
乳頭部の奥の方に母乳が溜まる場所がありますので、乳頭部と乳輪部全体をつまんでみましょう。
母乳の出方は個人差が大きいものです。
この時期に搾乳器の使用に関しては、刺激が強すぎることがありますし、母乳の量としてはあまり搾り出せないことが多いのです。
割と母乳の分泌状態が良く、手で搾るよりも搾乳器の方がよく搾ることができるという場合は、使っても大丈夫です。
入院中ならば、どの方法が良いかスタッフに確認してみましょう。
冷やす
「あまりにも熱い」または「熱い+痛い」ときには、保冷剤で冷やしてもいいですね。
寒くなる場合は、無理して冷やさないでおきましょう。
冷やすと気持ちがいいと感じるときにやってみるといいですね。
私が担当した患者さんの例
産後、ある程度の日数がたった後の「母乳がたまったときの熱」で来院された方のケースをお話しましょう。
その方は、よく母乳が出ていて産後3ヶ月程たったときに、乳房が熱く痛いという訴えで来院されました。
触ってみると、確かに片方の乳房だけ熱く、押さえると痛い部分がありました。
自分で痛い部分を押して搾ったり、一生懸命赤ちゃんに飲ませたりしていたようですが、症状が改善しなかったとのことでした。
私が軽くマッサージをしながら、母乳を出していくとだんだん乳房が柔らかくなっていき、10分もしないうちにほぐれて、痛みが取れました。
おそらく、ある乳腺が細くなっていて詰まりかけていたのだと思います。
同じ姿勢で授乳していて、その分から母乳を飲み取りにくく、だんだんその乳腺から母乳が出ない状態になっているようでした。
ちょっと、抑えたり動かしたりして負荷をかけて搾っていくと、問題なく出始めて痛みが治まりました。
人間は、痛いことを自分で自分にできません。
助産師にしてもらうと痛みを我慢することに集中できて、すんなりと改善することがあるのです。
助産師がするマッサージも刺激になって、張り返しが来ることがありますので、寒くなければ数時間は保冷剤を当てておくようにお伝えします。
次の日に状態をお電話でお聞きしたら、もうすっかりよくなったと言われていました。
このように、ちょっとしたケアで良くなることもありますので、早めに相談できるといいですね。
悪い熱
悪い熱の場合は38度以上の高熱が出ますので、「感染性(化膿性)乳腺炎」です。
その場合、次のような対処方法があります。
受診し抗生物質を飲む
悪い熱の場合、まずは受診をおすすめします。
なぜかというと、「感染性(化膿性)乳腺炎」では、対処が遅いとどんどん状態が悪化してしまうからです。
例えば、夜中や休日に発熱した場合は、かかりつけの産婦人科に連絡し、指示を仰ぎましょう。
昼間で病院が開いている場合は、連絡して診てもらえるかどうか確認して受診しましょう。
受診すると、多くは授乳をしながら飲める抗生物質が処方されます。
医師から出された薬は、安心して飲むことができますので、飲まなかったり途中で飲むのをやめたりしないようにしましょう。
または、数日間病院に通って抗生物質の点滴を受けることもあります。
そして、抗生物質を使用しながら、次の対処方法をすすめられることが多いです。
授乳姿勢を変えて飲ませる
基本的に、「感染性(化膿性)乳腺炎」でも授乳を続けながら治療ができることが多いのです。
色々な姿勢での授乳をするようにすすめられるでしょう。
一つの姿勢で授乳していると、詰まりがある乳腺から飲めなかったり飲みにくかったりすることがあります。
今までと違う姿勢で授乳してみましょう。
「乳腺炎になっている母乳をあげると、赤ちゃんに影響がないか心配」と思う方もいらっしゃるでしょう。
菌に感染した母乳を赤ちゃんが飲むと、赤ちゃんが病気になってしまいそうな気がしますよね。
でも、安心してください。
お母さんの身体に何か菌が入ってきたとしても、抗体が作られて菌と戦います。
その抗体が母乳でも作られており、赤ちゃんが飲むとその菌に感染しないようになっているのです。
このことから、赤ちゃんが嫌がらない限り母乳を飲ませても大丈夫ということが言えます。
搾乳する
乳腺炎のときには、赤ちゃんが嫌がって母乳を飲まないことがあります。
なぜかというと、炎症反応によって乳質が変化すると言われているからです。
そのために、赤ちゃんがいつもの母乳と違うと感じて飲むのを嫌がったり、乳頭を引っ張ったり、噛んだりすることがあります。
これだと、母乳を出したいけど出せなくなりますね。
そんなときには、搾乳をしてみましょう。
手で搾ってもいいですし、搾乳器を使ってもいいです。
痛みが強くならないように加減しながら、乳房を動かして搾ると母乳が出やすいと思います。
冷やす
乳房を冷やした方が気持ちがいいと感じるときには、冷やしてみましょう。
「炎症があるときには温めない」のが基本です。
でも、身体が寒い、保冷剤を当てると気持ちいいけど冷えすぎるというときには、無理をして冷やさなくてもそのままの状態で大丈夫です。
ほぐす
乳腺炎で受診すると、助産師が乳房のマッサージをしながらほぐしてくれる場合があります。
全ての病院でいつでもしているわけではありませんが、できる限り対応してくれると思います。
自分でほぐすとしたら、どうしたらいいのかを教えてもらっておくといいですね。
もし、マッサージなどほぐすケアがない場合は、自分でやってみるのも一つですが、自分ですると痛いかもしれません。
一番簡単な方法は、乳房をゆっくりとぐるぐる回す方法です。
肋骨から乳房を剥がすイメージで、時計回りや反時計回りなど大きく回してみましょう。
これは、痛ければいいというものではありませんので、加減しながらできるといいですね。
よくわからないし、自信がない場合、動かせる範囲で乳房を動かしてみるという方法でもいいですよ。
切開
あまりにも状態が悪くなっている場合、乳房を切開して排膿することがあります。
乳房の中に、うみがたまってしまって出さないともっとひどくなるからです。
乳腺炎の最終的な治療です。
切開しても、乳腺炎になっていない乳房からは赤ちゃんに授乳できることがあります。
ただ、毎日ガーゼ交換に通う必要があり、なかなか大変です。
ここまでひどくならないように、早めの対処が必要ですね。
私が担当した患者さんの例
あるお母さんが乳腺炎で来院されました。
熱も38度以上、寒気もあり、片方の乳房が熱くなって硬くなっていて、赤く痛みもありました。
典型的な「感染性(化膿性)乳腺炎」のようでした。
赤いところが硬くなっていましたので、できるだけ痛くないようにほぐしていきました。
なかなかほぐれませんが、30分程たったところで痛みが楽になったようなので、マッサージを中止しました。
乳房の硬さは若干良くなったもののまだ残っていました。
医師の診察を受けてもらい、抗生物質の内服薬を1週間分飲むように指示されました。
抗生剤を飲みながら1−2日目で普段通りに授乳していたら、熱は下がり痛みはほとんどなくなりました。
痛みや硬さは日に日に取れてきて、抗生物質を飲み終わる頃には、普段の状態に戻っていました。
出された薬をきちんと飲み、授乳もしっかりとした効果が出て、問題なく乳腺炎が治ったケースです。
乳腺炎は早めに対処すれば、怖くありません。
ちょっとおかしいなという段階で、相談してみてもいいですよ。
まとめ
授乳中の熱は、良い熱も悪い熱もあります。
見分け方は、「38度以上の熱かどうか」です。
でも、38度以上の熱がない場合で、乳房が痛かったり硬かったりするなどの症状があるときには、赤ちゃんにたくさん吸ってもらったり、搾ったりしてみてくださいね。
何度かそのようにやってみても改善しない場合は、無理に自力で治そうとせずに、早めに助産師や医師に相談しましょう。
医療情報科研究所編集(2009)『病気が見える』vol.10 産科(第3版)メディックメディア
堀内成子編集(2016)『エビデンスをもとに答える 妊産婦・授乳婦の疑問92』南江堂